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翻訳
              トーマ・ヒロコ

 

更衣室で隣のロッカーを開ける手
その腕に光る時計
「あいっ、その腕時計上等だね」
「上等」はきっと最上級の褒め言葉
けれど言われた方は怪訝な顔
「あ、その時計すごくかっこいい」

 

後輩が私のグラスにビール瓶を傾ける
「とーとーとーとー」
出そうになった言葉をあわてて胃に押し込める
グラスは黄色く染まっていく
「あー、その辺で」

 

「そんなにてーげーでいいの?」
「あの人、またふゆーしている」
「何とぅるばっているの?」

 

馴染んできた言葉で話したくても

みんなの不思議がる顔が目に浮かぶ

だからといってうまく訳などできない

日本語を当てはめてみたところで

島の言葉ほどの色は出せない

赤は桃色 黄色は肌色 青は水色

薄くなって物足りない

 

口に出せなかった言葉たちは血液に溶けて

私の体内をぐるぐるぐると駆けめぐる
名乗らなくてもわかる家族と電波で繋がるその時まで

島の仲間と乾杯するその時まで

 

工場の片隅機械にうっかり頭をぶつけ

「あがっ」と小さく声を上げる

 

 

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