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左側の人

                      トーマ・ヒロコ

 

いつから急いで歩くようになったのだろう

エスカレーターの右側を

今日は改札を出たところで待ち合わせ

まだあと一〇分もあるのに

 

いつから心の中で毒づくようになったのだろう

右側を立っているおばちゃんに

「はっさ、これだから田舎者は困るばーよ」

自分も田舎者だというのに

 

急がない人は左側に立ち

急いでいる人は右側を歩く

一年半前までは知らなかった常識

 

半年ぶりの家族みんなで囲む食卓

ブロッコリー、じゃがいも、マカロニ

あまり食べなくなった食べものたちが目立つ

「エスカレーターなんて歩かないけどね。そんなに急ぐ必要ないし」

マカロニサラダを食べながら母は言う

「あんた向こうでもマカロニよく食べてるの?」

「いや、茹でるのが面倒であんまり食べない」

窓の外からは蝉の声と子どもたちの歓声

 

仕事帰りの電車を降りてエスカレーターに乗る

エスカレーターの左側に立ち

急いで右側を歩いていく人々の後ろ姿を見ながら考える

帰ったらマカロニを茹でよう

シーチキンと卵とニラと一緒に炒めよう

小さい頃から好きな味

「ひと手間かけるとおいしくなるのよ」

母の新しい口癖を真似てみる

 

 

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